「起業家のマナー」シリーズ、今回は第7回です。
前回は、コミュニティの秩序を守るために「筋を通す」というお話をしました。
今回も、筋を通す話の続きです。一般社会では当たり前なのに、無形の商売になった瞬間に、なぜか守られなくなるマナーがあります。
それが、引用元の表示です。
- 無形の商売で、引用元を言わない人が多い本当の理由
- 引用元を出したほうが、むしろ信頼性が上がる仕組み
- 「お客さんが先生のところに流れる」という心配が勘違いである理由
理系の世界は「引用」の積み重ね
私は、一応理系の人間です。薬学部の出身で、薬剤師の資格を持っています。
理系の世界というのは、実験の積み重ねでできています。
誰かが、分からないことを実験で確かめる。その結果が、論文として発表される。
次の人は、「この人がここまで証明してくれた。でも、ここはまだ分からない。だから私はここを解明する」と言って、次の実験をします。
3人目は、「1人目がこう示し、2人目がこう確かめた。その上で私はここを突き止める」と続けていく。
そうやって、先人たちの歴史の上に、新しい知見が積み重なっていくんです。
理系に限った話ではありません。心理学でも、フロイトやユングが提唱した理論を元に「私はこうしています」と示しますよね。

先人の知恵を借りたなら、借りたと言う。それが当たり前なんです。
なぜ無形の業界では、引用元が消えるのか

ところが、無形の商売の業界になった瞬間に、この当たり前がなくなります。
みんな、まるで自分の知識のように話し出すんですよ。「もともと知っていました」「自分の経験から学びました」という顔をして。
でも、そこには必ず引用元があるはずです。それを言わない人が、本当に多い。

借りた知恵を、自分のもののように話していませんか。
そして、これは私自身がやってしまっていたことでもあります。
師匠から受けた、痛い指摘
以前、師匠の大森健巳先生から、こう指摘されたことがあります。
「貴詞さん、そこはちゃんと引用元を出さないとダメだ。出さないのは、お前が自分に自信がないからだ。だから自分の知識のように振る舞っているんだ」。
もう、本当にその通りでした。
私はもともと、無価値感や無力感、自信のなさと長年戦ってきた人間です。
自分には何もない。だから、せめて知っていることくらいは自分のものに見せたい。
今思えば、そんな気持ちがどこかにあったのだと思います。
どれだけ改善してきた、努力してきたと言っても、根深いものがありました。その根っこが、引用元を言わないというところに出ていたんです。
引用元を言わないことは、教えてくれた方への筋を通していないということでもあります。誰から学んだのかは、必ず添えるべきなんです。
引用元を出したほうが、権威性は上がる

ここからが、意外に思われるかもしれない話です。
引用元を出したほうが、あなたの権威性は上がります。
多くの人は逆だと思っています。自分の知識のように話したほうが、すごい人だと思われる、と。
言わないのは、自信のなさの表れです。
自分を重要な人物に見せたい、すごい人だと思われたい。
その気持ちが強い人ほど、引用元を言いません。
でも、これは逆効果なんです。
たとえば私が「ヒューマンニーズ」という考え方についてお話しするとします。
ただ「6つのヒューマンニーズがあって」と話すのと、「これはアメリカのセミナーでアンソニー・ロビンズから学び、その教えを受け継いでいる師匠の大森先生からも学んだ理論です」と話すのとでは、どうでしょう。
後者のほうが、信憑性も信頼性も、ずっと増しますよね。

ちゃんとした先生から学んでいる、と分かったほうが信頼されるんです。
引用元を出さないのはマナー違反です。しかも、出さないほうがあなたが損をする。
だったら、出したほうがいいに決まっていますよね。
引用元は、ひとこと添えるだけでいい
「引用元を出す」と聞くと、論文のように難しく考えてしまう人もいるかもしれません。
でも、発信や講座の中でやることは、話の頭にひとこと添えるだけです。
- 「これは、師匠の◯◯先生から教わった考え方なんですが」
- 「◯◯という理論がありまして、私は◯◯先生から学びました」
- 「◯◯さんの本に書かれていて、私も実践してみたんですが」
たったこれだけで、聞き手はその知識がどこから来たのかを知ることができます。
そして、その後に続くあなたの実践や経験が、「借り物」ではなく「積み重ね」として伝わるようになります。
理系の論文と同じです。先人の上に自分の一段を積む。それを隠さず見せることが、いちばん誠実な発信なんです。
「お客さんが、先生のところに流れるのでは?」

ときどき、こういう心配を聞きます。
「引用元の先生の名前を出したら、みんなそっちに学びに行ってしまうんじゃないですか」。
はい、行く人は出てきます。でも、全員ではありません。
そして、引用元の先生のところへ行く人は、そもそもあなたのお客さんにならない人です。
あなたとその先生の間に差を感じない、同じくらいのレベル感の人だからです。だから、それはそれでいいんです。

送れば送るほど、いいんですよ。
適切な人を送ると、適切な人が戻ってくる
先生の側から考えてみてください。
引用元の先生のところには、自分よりもレベルが2つも3つも下のクライアントさんが来ることがあります。
その人を先生が直接サポートしても、なかなか結果が出ません。噛み合わないし、ときにはクレームにもなる。先生にとっても、ミスマッチなんです。
すると、どうなるか。先生は「うちの弟子に、こういう人がいるから、そっちに行きなさい」と送ってくれるようになります。
弟子はだいたい、先生よりレベルが1つか2つ下です。先生から見て3つ下の人にとっては、ちょうどいい距離なんですね。
引用元を出すと、ちょうどいい人脈の交換が起きる。適切な人を送ることで、あなたにも適切な人が戻ってくるんです。
お客さんを囲い込もうとすると、流れは止まります。手放して送り出す人のところに、ちゃんと次のご縁が流れてくる。
これも一つの原理原則です。
おわりに ── 自信のある人ほど、学んだ先を語る

引用元を出すことは、マナーであり、筋を通すことであり、あなたのビジネスを守ることでもあります。
繊細な人ほど、「自分の言葉で語れなければ価値がない」と思い込みがちです。
でも、誰から何を学んだかを堂々と語れることが、じつは自信のある人の姿なんです。
あなたの価値は、誰かの名前を出したくらいでは減りません。むしろ、学んできた道のりそのものが、あなたの厚みになります。

ぜひ、今日から引用元を出していきましょう。
それではまた、次回のコラムで。
※本コラムは、YouTubeで公開された動画「90.起業家のマナー⑦」の内容を、読み物として再編集したものです。






